相場一宏 山下敬吾
ちょうど、初手天元、白なら2手目に辺という打ち方を試そうと思っていただけに、ぴったりの本だった。手順は違うが、初手天元で相手に隅をとらせて辺をメインに展開するというやり方を、実際昔のプロが行っていたことに少し自信を深める。そういう構想で方向で得しようという狙い。今度試す。
やはり、天元は全方位に力が向くために、プロであっても運用が非常に難しいようだ。天元研究して分かるのはそこらしい。序中盤の布石にや戦いにおける働きもあれば、けーご−名誉碁聖のように寄り付きで間接的に働いたりと、効果が発揮されるタイミングも一局一局違う。こんな不確定要素を初手に持ってきて働かせるのは、難しいことこの上ないな。
天元の働かせ方だけでなく、真似碁における天元も興味深かった。黒からならどこで変化するか。白の真似碁に対してはいつ天元に打って避けるのかという駆け引き部分が面白い。真似碁は工夫などの創意が見られない気がする分、無粋というか面白くないというか、そういう感じは確かにするが、プロならばそれを研究してしかるべきというのもなるほどと思う。それに真似碁においてはどちらの立場であっても天元が重要になるところも面白い。神様同士が打ち合ったら真似碁になりそうだもんな。
けーごの解説などもそうだったけど、大抵天元が働くようになると勝てる。無効化されると負けという感じ。場合によっては大模様にさせて白からしのぎ勝負というやり方も。まぁなんだかんだで碁は難しいと。
様々な事例や変遷などがわかり、資料としても非常に有用と思う。
大まかな内容
最初言葉のお話から。井目聖目や天元がいつくらいから言われたとか。結構かったるい。安井算哲?が天文方だったりというところから、御城碁だっけかで道策に打ったのが最初だとかどうとか。
そんな感じで天元の歴史をなぞりながら、その天元譜の序盤あたりの流れの解説。総譜もきちんとある。天元研究の紹介も踏まえ江戸から明治、昭和、戦前、新布石、戦後、昭和という風に時代を登りながら、その時その時に打たれた天元譜を紹介。天元だけでなく中原や真似碁をテーマにもしている。最後は山下敬吾現棋聖の天元譜を数局、序盤から中盤までだが、自戦解説。
初手天元は江戸〜明治期はほとんどない。昭和中期から現在でも30局もない。意外にない。へぇ。昭和中期からのではコミなし碁もあるが、成績はトントンとのことだ。面白い。
江戸明治あたりまでは、初手天元はむしろ礼に失するという雰囲気があったそうだ。算哲の天元も、道策は算哲が天文方であることから特に気にしていなかったそうな。ただ、当時の布石感覚からでは運用が難しく、道策は断然優れていたこともあるが、算哲に天元の働かせ方についての工夫はなかったようだ。が、相手と気脈が通じてもいなければ、天元の研究を試したくても試せないような雰囲気が周りにもあったようで、後世に残るような場では打ちづらかったようだ。
明治期の棋士の天元研究の論に依れば、隅や辺の打ち方はあらかた究められたとしても、天元の打ち方は変化無限により研究され尽くしていない。それにより積極的に打つにあたわずとの事のようだ。また、当時はコミなしであったから、黒でそこまで積極的な棋風はいらなかったのかもしれない。実際、研究してた人間が運用がものすごく難しいといっている。感覚的に天元が一番に見えてもやはりそこはそこで難しいのだろう。
新布石後には結構いろんな人が試されたらしい。初手天元だけでなく5手目天元などの形も。要するに中央志向、勢力、速度重視の価値観が広まったというようなことなのだろう。これにより様々な工夫がされるようになったそうだ。黒だけでなくそれに対する白の打ち方も非常に複雑になったようだ。星や、目はずしで天元の効力を減殺させるような構想を逆に目指す。
最初は天元があとあと模様の接点になるような打ち方を目指す構想がメインだったようだが、戦いに使う構想や、場合によっては実利に分かれて相手の消しの拠点にしたりと、様々な働かせ方が試されたみたいだ。旧布石派などは懐疑的だったそうだが、秀哉名人も先着の功が分散するというようなことを言ったとか。白江タンは若い頃大高目を頻発して勝ってたとかとか。やっぱあの人スゲーな。
天元真似碁はコミなしではまぁそれなりに有効なようだ。相手の手をゆるいと見たら変化するというのは、ひたすら様子見といえなくもない。2手目真似碁潰しみたいな手もあって面白い。
同様にコミ碁における白番真似碁も、白からすればものによって変化するし、黒からも嫌えば天元という風に、確かにどちらが碁の変化を見極めているかというよりかは、駆け引き的要素が強い。でも一度くらいはこういう打ち方も試してみたいところ。
真似碁形にになるオールスターは、黒が10目ほどいいという結論だそうだ。しかし、途中の三連星vs三連星が今ではありえないので、白からもどうかという感じか。さらにいえば、翻って黒三連星からの打ち方も、白からの手への対応が難しく、天元が良い場所になるかどうかが難しい。
けーご自戦解説はまぁそこそこ。締めはこれからの碁であっても変化無限の天元の魅力は変わらないみたいなことが書いてあった気がする。
なんだかんだ天元に打った石が勝敗の要素になったという棋譜も多いわけでなく、天元以外の部分で勝敗が決してしまったりする場合も多いので、未だ天元研究はやり尽くされてはいないようには感じる。マサオたんは天元に打たれたら2目半くらい得したと思っていたそうだが、それなりに研究されての結論なんだろう。まぁ中央ポン抜き4子+星4子と普通の8子なら、普通の8子が断然イイというマサオタンならそうだろうな。